明治期に建てられた赤レンガの麹室。
ここで麹がじっくりと育っていきます。
「四日こうじ」は、その名の通り、仕上がりまでに四日間を要します。
基本的には、毎週月曜を仕込みの初日と決め、最終日の木曜まで連日の作業。しかも、赤レンガの麹室(こうじむろ)をはじめ、麹板(こうじいた)、藁薦(わらこも)など、昔ながらの道具や室を活用し、伝統的な「上蓋製麹法」を守り続けています。
ほぼ手作業なので、生産量を増やすことが難しいですが、その分、隅々まで職人の想いを込めた、優しい麹へと仕上がります。
DAY 1
せんまい・しんすい
6:00
──月曜の朝6時。
夜の余韻と朝の光を感じながら始まる、高善商店の麹づくり。
静けさと、澄んだ空気に満ちた作業場で職人たちが、坦々と作業を進めていきます。
まずは洗米と浸水。
使う米は、岩手県産の「ひとめぼれ」。
豊かな粘りと甘みがあり、トータルバランスに優れた品種で、地元民なら誰しもが一度は食べたことのある馴染みの米。
洗米後は、水に浸して吸水させていきます。
吸水時間は、季節、天候に合わせて調整するのが職人の勘どころ。
むしに
8:00
──8時。 米の吸水状態を見極めつつ、蒸し具合にバラつきが出ないようにしっかり水切りしてから、大きな蒸し釜へ。次から次へと、蒸し釜に米を入れつつ、たっぷりの蒸気を一気に送り込みます。
朝の空気と交じり合い、より白さを増す蒸気。職人たちの足しか見えなくなるほど作業場を覆いつくし、さらには、外まで広がります。
麹が好む、安定した蒸米(むしまい)の目安は、指でひねり潰した時に「ひねり餅」ができるかどうか。潰した時に白い芯が残っておらず、でも固さを感じる程度。この固さが、美しい麹づくりの土台になっていくのです。
というのも、麹菌は水分を求めて菌糸を広げていきます。外硬内柔と言われるように、蒸米の外側が硬くパラパラとして、内側が柔らかくしっとりしていると、内側に向かって菌糸が伸びやすくなるのです。米の表面だけでなく、中までしっかりと麹菌が入りこむことが、美味しさの秘訣です。
むしとり
9:00
──9時。 蒸米があがったら、ここからは温度との勝負。放冷台に乗せて蒸米をほぐしながら冷ましていきます。熱すぎると、加える種麹が死滅し、冷まし過ぎると、麹が育ちません。温度計を差し込みつつ、職人の手で感じる温度を一番の頼りに、人肌の温度になるよう何度も何度も蒸米をほぐしていきます。
たねきり
9:30
使う種麹は、毛足が長く美しい華を咲かせるもの。毛足が長い分、成長までに時間がかかります。それこそが、麹づくりに四日かかる理由なのです。種麹を振りかけたら、再び、全ての蒸米に菌が行き渡るように混ぜます。まんべんなく、まんべんなく。ひたすら蒸米と麹を引き合わせます。
ひきこみ・とこいれ
10:00
麹菌を混ぜた蒸米は、麹づくりの心臓部でもある明治期に建てられた赤レンガ内の麹室(こうじむろ)へ。室内にある、床と呼ばれる大きな箱へ運び込みます。床の中でひと塊にすることで、麹自身が発酵しながら熱を発し、理想の温度まで上がっていくのを見守ります。
とこもみ
14:30
──14時半。 鼻の奥にぐっと入り込む、甘い香り。 熱さが増した空気感。 床に引込んだ時は、30度前後だった蒸米は、この時点ですでに38度まで上昇。麹菌が蒸米にしっかり根付き、発芽が進んでいることを温度で知るのです。
きりかえし
ひと塊にしつつ、保温していた蒸米を、専用の機械に通しつつ、ほぐしながら放冷。小さくほぐれていく蒸米。さらに麹菌もよく混ざっていきます。その後また、床の中でひと塊にして保温し、この日の作業はようやく終わりを迎えます。